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粒・粒状食品の殺菌に最適!過熱水蒸気殺菌の原理と特徴について解説

はじめに

食品の加工製造に携わる食品メーカーの方々は、自分たちの開発した商品を世の中に届けたい!という想いを持っているのではないでしょうか。でも出荷・輸出をするには殺菌が必須だし、どんな殺菌方法が適しているのかが良く分からない…そんなお悩みを抱えている方も多いはず。

粒や粒状の食品を殺菌するのであれば、過熱水蒸気殺菌という方法がオススメです。この方法を使えば、食品の品質を保ったまま、わずか数秒で基準を満たす殺菌レベルを達成することができます。

そこでこの記事では、100年近くにわたり乾燥機をはじめとした食品原料生産装置の製造を行ってきたメーカーの立場から、過熱水蒸気殺菌の原理と特徴について分かりやすく説明します。

 

なぜ、食品の殺菌が必要なのか

粉粒体食品の殺菌方法

・加熱殺菌について

・加熱殺菌における湿度の影響

・加熱温度別の必要処理時間と処理後の品質について

過熱水蒸気を使った殺菌装置と事例紹介

・過熱水蒸気を使った加熱殺菌の原理

・殺菌処理前後の品質

まとめ

 

なぜ、食品の殺菌が必要なのか

世の中には、非常に多くの食品が流通しています。その一つひとつに対し、安全性を確保したり、長持ちさせたりするという目的で殺菌処理が施されています。当たり前のように行われている食品の殺菌、なぜ必要なのでしょうか。それは、大きく分けて下記3つの理由があります。

  1. ●HACCP(衛生管理手法)に沿った形での食品管理が義務付けられた
  2. ●食品原料の輸出入が増え、殺菌工程が重要視されている
  3. ●健康食品を中心に、天然由来素材の需要が高まっている

まず1つ目が、ルールの改正です。

ここ最近、食中毒事件の発生により食品衛生法が改正され、HACCP(ハサップ:Hazard Analysis Critical Control Point)という衛生管理手法に沿った形での食品管理が義務付けられるようになりました。それに伴い、食品に含まれる菌の数を厳しく管理する大手食品メーカーが増えてきています。

2つ目が、食品原料が活発に輸出入されるようになったためです。

国内と海外では殺菌の基準が異なり、海外では一般的に行われている殺菌方法が日本では禁止されている、という場合もあります。逆に、国産食品を海外へ展開する際、より厳しい品質基準を満たすため、あえて国内とは異なる方法で殺菌するところもあります。このように、原料の殺菌工程が改めて重要視されているのです。

そして3つ目が、天然由来素材の需要が高まっているためです。

普段、スーパーなどで買い物をしていて「機能性表示食品」と書かれたものをよく目にするようになりましたよね。青汁や健康茶などの健康食品が主な対象ですが、そこには天然由来の素材が使われています。そして、素材本来の特徴を引き出した健康食品を作るためには、成分を壊さずに殺菌処理を行う必要があります。

このような理由から、殺菌処理は食品製造における非常に重要な工程として認識されています。ここで、国内外でも多く流通している穀類、香辛料、乾燥野菜、茶類などの粉粒体食品に目を向けると、付着している菌がすべて有害というわけではありません。しかし、場合によっては病原菌や食中毒菌に侵されていることもあるため、殺菌によって菌の数を基準値以下まで減らす必要があります。

それでは、粉粒体食品を殺菌するにはどのような方法があるのでしょうか。次の章でご説明します。

粉粒体食品の殺菌方法

粉粒体食品の殺菌方法は、薬品・放射線・紫外線・加熱の4つに分けられます。しかし、ルール(法律)の厳しさや安全性、殺菌効果を考慮すると、加熱殺菌が最も優れた方法だと言われています。

 

加熱殺菌について

加熱は、食品の調理にも使われるほど一般的です。古くなった卵は生では食べられませんし、鶏肉などは中までしっかり火を通すことが大切です。しかし裏を返せば、火を通した卵や鶏肉は元の状態には戻せず、状態が大きく変わってしまっています。

加熱殺菌においても同様で、処理の前後で下記に示す状態変化が生じる可能性があります。

  • ・色
  • ・栄養
  • ・香り
  • ・形(組織)

これらの変化は、最終的な食品の品質にも大きく影響を及ぼすため、品質の変化を抑えつつ効果的に加熱殺菌を行うことが非常に重要です。

 

加熱殺菌における湿度の影響

加熱殺菌について、もう少し詳しく見ていきましょう。加熱殺菌は乾熱殺菌と湿熱殺菌とに分けられ、両者の違いは「湿度」のみです。しかし、その効果には非常に大きな差があることが良く知られています。

たとえば、ある菌を120℃で加熱殺菌した場合を見てみます。

グラフは、菌の中に含まれる微生物を9割死滅させるまでにかかる時間を比較したものです。これによると、乾熱が120分なのに対し、湿熱は1分以内とその差は一目瞭然。

つまり、温かい空気をただ当てるだけでなく、水蒸気を使うことで非常に短時間で殺菌できることが分かります。

 

加熱温度別の必要処理時間と処理後の品質について

では、低温で長い時間殺菌をするのと、高温で短い時間殺菌をするのでは、どちらが処理前後での品質を維持できるのでしょうか。

そこで、殺菌処理前後におけるビタミンB1の残存率を見てみます。

これより、116℃で21分殺菌処理した場合は80%、137℃で10秒処理した場合99%のビタミンB1が元の形のまま残っている事が分かります。

つまり、高温かつ短い時間で処理できれば、大切な栄養素を壊すことなく食品を殺菌できるのです。

過熱水蒸気を使った殺菌装置と事例紹介

そこで弊社は、高温・短時間で粉粒体の殺菌処理を行える装置を開発しました。

ポイントは、粉粒体食品が高温かつ高圧の過熱水蒸気中を分散しながら流れていくという点です。

 

高温・高圧の過熱水蒸気を使うことで、数秒レベルという非常に短時間で殺菌を行うことができます。

ここからは、なぜ過熱水蒸気を使うことで短時間での加熱殺菌が可能になるのか、その原理について触れつつ、実際の殺菌効果についても詳しく解説します。

 

過熱水蒸気を使った加熱殺菌の原理

まずはじめに、過熱水蒸気についてご説明します。過熱水蒸気とは、ある圧力において飽和水蒸気以上の温度を持つ水蒸気のことです。

ただ、過熱という言葉は、あまり聞き馴染みがないですよね。よく聞く加熱との違いは何なのでしょうか?次の図を用いながら説明していきます。

 

これは、水の飽和水蒸気曲線を示しています。堅苦しい言葉ですが、この曲線より上の領域では、水は気体(水蒸気)として存在しており、下の領域では、液体(熱水)として存在しています。

お鍋の水が沸騰する様子を思い浮かべてみてください。水の温度が100℃に達すると、ボコボコと沸騰しますよね。このとき水は、沸点を迎えて水蒸気(飽和水蒸気)になっています。グラフの中で見ると、0.0MPaG(大気圧)の水を加熱していったことを意味します。

この時発生した水蒸気は、冷えて水に戻るときに大きな熱(潜熱)を放出します。どれぐらい大きな熱かというと、水蒸気1gあれば水100gの温度を6℃も上昇させることができるほど。この熱を使えば、効率よく食品を加熱することができます。でも普通に水を加熱しただけでは、100℃以上の温度にはなかなか到達できません。

そこで、グラフ①のとおり0.2PaGまで圧力を高めていくと、水が飽和水蒸気になる温度が133℃まで上昇します。この飽和水蒸気を使えば、最大で133℃まで食品を加熱できるようになります。

さらに、グラフ②のとおり133℃の飽和水蒸気を180℃まで加熱していくと、飽和水蒸気を過ぎる温度まで加熱した、という意味から「過熱水蒸気」と呼ぶことができます。

ここまで説明してきた通り、水蒸気は「湿り気のあるもの」というイメージがあるのではないでしょうか。沸騰した水の上に手をかざせば手が濡れますし、水蒸気を使って食品を蒸すこともできます。一方で過熱水蒸気は、水蒸気をさらに加熱して温度を高めることで、中に含まれる水分が少なくなっています。つまり「乾燥した」水蒸気となっているため、周りを乾燥させる力が強いという特徴を持っています。

まとめると、高温・高圧の過熱水蒸気を使った加熱処理では、非常に短時間で、通常の水よりも高い温度まで、食品を湿らせることなく加熱することができます。

 

殺菌処理前後の品質

それでは実際に、高温・高圧の過熱水蒸気を使って粉粒体を加熱殺菌処理したときの、殺菌効果(品質)について見ていきましょう。

<さまざまな粉粒体食品の殺菌データ>

品名 処理前 処理後 処理時間
一般生菌数(個/g) 耐熱生菌数(個/g) 一般生菌数(個/g) 耐熱生菌数(個/g)
ブラックペッパー(粉末) 16,000,000 480,000 <300 <300 4秒
唐辛子(粉末) 1,500,000 1,000 <300 <300 4秒
アラビアガム 33,000 2,000 <300 <300 4秒
そば粉 510,000 200 <300 <300 4秒
碾茶 2,700,000 <300 <300 <300 4秒

まず、処理時間を見ていただくと、わずか4秒という非常に短時間で殺菌処理を行えていることが分かります。そして、このたった4秒の殺菌処理で、数万〜数千万レベルで存在していた菌の数が、300以下(検出下限値)にまで大きく減少しました。

 

<殺菌処理前後における栄養素の変化(モロヘイヤ100gあたり)>

栄養素 処理前 処理後 残存率
総カロチン 14.7mg 14.1mg 96%
ビタミンB2 1.73mg 1.73mg 100%

また、加熱によって総カロチンやビタミン類が壊れやすいと言われているモロヘイヤについても、殺菌前後の栄養素が95%以上保たれていることが分かりました。

このように過熱水蒸気を使うことで、食品本来の品質を損なうことなく、非常に効率よく粉粒体の殺菌処理を行うことができるといえます。

 

まとめ

この記事では、粒や粒状食品の殺菌に最適な、過熱水蒸気殺菌の原理と特徴について詳しく解説しました。

高温・高圧の過熱水蒸気を用いることで、非常に短時間で、通常の水よりも高い温度まで食品を加熱することができます。加えて、水蒸気の殺菌効果を保ちつつも食品を湿らせることなく加熱できるため、従来は加熱殺菌が難しかった粉・粒状の食品に活用できます。ぜひ、さまざまな粉粒体食品の殺菌にお役立ていただけたらと思います。

適用可能な食品の範囲など、ご質問などがございましたら、お気軽に弊社までお問い合わせください。

またこの記事で紹介した、過熱水蒸気殺菌を搭載した装置について詳細を知りたい方は、以下のリンクから製品ページをご覧ください。

 

殺菌装置


粉粒体殺菌装置 KPU

粒専用殺菌装置 SIRV

 



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