大学や医療機関、研究所や工場など、さまざまな場所で使用されている「試薬」という薬品をご存じでしょうか。
聞き馴染みのない言葉かもしれませんが、病気の診断薬の原料になるなど、実は身近なところで使われています。
そんな試薬の専門メーカーとして、世界に8つの拠点を持つ同仁化学研究所が、約30年ぶりに新たな研究所を建設しました。
研究所新設で目指した生産の理想像とは何なのか。
このプロジェクトを推進してきた取締役執行役員 試薬開発本部長の尾関 信之様と、
試薬開発本部 技術部 技術課長の大山 誠様にインタビューを行い、
新生産ラインに込めたコンセプトや現在の稼働状況、今後の展望などについて伺いました。
株式会社同仁化学研究所 https://www.chlorella.co.jp/
株式会社同仁化学研究所は、1946年に合資会社同仁薬化学研究所として設立されました。その後1989年からは現在本社がある熊本県益城町のテクノリサーチパークへ拠点を移し、以来30年以上にわたり試薬の開発および生産を行っています。1996年からは、海外展開を見据えて世界各国に販売拠点を拡大し、現在では海外5拠点、国内8拠点でグローバルビジネスを展開しています。
工程を大きく変えられない中での研究所新設。目指した5つのコンセプトとは
工程を大きく変えられない中での研究所新設。目指した5つのコンセプトとは
―(右から順番に)第二研究所の立ち上げを推進してこられた、株式会社同仁化学研究所取締役執行役員試薬開発本部長 尾関 信之様、同試薬研究本部技術部技術課長 大山 誠様
―今回立ち上げた、新生産ラインの目的やコンセプトについてお聞かせください。
第二研究所を新設するにあたり、
「安全性」「効率性」「保守性」「洗浄性」「見せることのできる工場」という5つのコンセプトを掲げていました。
弊社は従来よりバッチ式の手動の装置で生産を行っており、単品で置かれた装置の間を人がつないでいる状態でした。
そのため、ボタン一つで全部動作できる、そんな生産体制を構築したいと考えていました。
ただし、血液検査や尿検査などに使われる診断薬を生産しているため、製造工程を大きく変えられないという制約があります。
そこで、工程を集約したり、自動化を取り入れたりするなどして生産ラインを構築していきました。
加えて、時代の流れとともに法令も変わったため、古くなった設備をそのまま置き換えるのではなく、
時代に合った設備へ変えていくことが求められていました。
―設備設計にあたり、苦労した点や気を付けた点などはありますでしょうか?
設計時に苦労したのは、決められた条件の中で生産ラインを構築していくことです。
一般的には、コンセプトを元に設備の配置や大きさを決め、建屋全体の大きさを決めていくのがセオリーだと思います。
しかし今回は様々な制約があり、建屋の大きさが限定された、いわゆる「土地に建屋ありき」の状態でした。
そのため、設備を建屋全体の寸法に収めることに苦労しました。
ちょうど都合の悪いところに柱が来てしまい、数cmレベルで設置場所を確保することもありましたね。
予算内、かつ決められたスペースで生産ラインを立ち上げる必要があったので、そこが苦労した点です。
ただ、場所の制約こそあったものの、一つひとつの設備は余裕をもって配置することができました。
その結果、見学通路から見えやすくなったり、作業者が広々とした空間で業務できるようになったりという副産物もあったので、
そこは良かったですね。
あとは、各メーカーの設備同士で配管を接続する箇所もありましたが、大川原製作所さんにうまく調整していただきました。
―(奥側右から順番に)株式会社同仁化学研究所 尾関様、大山様、(手前側右から順番に)大川原製作所営業本部長 菅谷、同営業企画 牧野
―今回、新生産ラインの一部を大川原製作所にお任せいただきました。そもそも、弊社やその設備を知ったきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
もともと、大川原製作所の副社長さんが弊社に来られていたこともあり、大川原製作所という会社自体は知っていました。
実際にやり取りをすることになったきっかけは、数年前のインターフェックス*1です。
*1 インターフェックス: 医薬品・化粧品・再生医療の研究・製造に関するさまざまな製品・サービスが出展される展示会。
そこから数年ほど連絡を取り合うことはなかったんですが、工場新設の話が出た際にご相談をしたところ、覚えててくださいました。
それがきっかけですね。
工場を新設するとはいえ「工程を大きく変更できない」という難しさもありました。
そこは同じ工程の中で効率化を図る、自動化するという形をとったことで、新しい装置をうまく入れ込むことができました。
一方、設備については、まずは乾燥装置を先に進めたいという考えのもと、
当時の上司からの勧めで大川原製作所さんの製品を調べていきました。
そこから色々と提案を受け、テストをさせてもらうことになったのが約4年前です。
テストを始めてから実際に設備購入を決めるまでには、コストも含め長い時間をかけてじっくり検討していきました。
その理由は、弊社の生産において、一つの設備をさまざまな製品で使いまわすという特徴があるためです。
酸やアルカリ、溶媒の種類、水に対する溶解性など、多くのバリエーションに対応できるものを求めていました。
実際のテストでは、リボコーンの他にFVドライヤー*2も試しましたね。
*2 FVドライヤー: コニカルドライヤーにろ過機能を付加し、ろ過、洗浄、乾燥、混合などができる多機能な乾燥機
ただ、結晶が乾燥中に固まる恐れがあったため、装置内にある羽根でほぐすことができないかと考え、
最終的にはリボコーンを導入することに決めました。
加えて今回、濃縮工程でも大川原製作所さんの設備を採用させていただきました。
これまで弊社では、一般的な濃縮釜*3タイプの装置を使用していたため、効率の良い濃縮機へ変えたいという考えを持っていました。
*3 濃縮釜: 大きな釜の外側に、蒸気などの熱媒体を通す空間がある濃縮装置。釜の中に溶液を入れ、加熱することで濃縮を行う。
他社のガラス製濃縮装置も候補にありましたが、地震によるリスクを懸念して導入を断念したという経緯があります。
そこで今回、リボコーンの導入に併せてエバポール*4もテストさせていただきました。
*4 エバポール: 高速回転することで溶液を薄膜化させ、効率よく濃縮を行うことのできる装置。釜タイプと比べて低温で処理できるため、品質劣化が少ないのが特徴。
その結果が良好だったことに加え、導入のタイミングを考えた時に「工場を新設する今しかない」となり、購入を決めました。
―実際にお任せいただき、良かったと思う点があればお聞かせください。
大きく分けて3点あります。
まずは、スムーズに工事を取りまとめていただいたところです。
今回、新生産ラインを構築するにあたり、建築設計・施工・設備を個別発注する方式をとったため、
施主である我々がすべてを取りまとめなければなりませんでした。
しばらくはその状態で進めてきましたが、正直なところ手いっぱいになってしまいまして。
「もうこれ以上、自分たちではわからない」という時に、大川原製作所さんへお願いできたのは大きかったです。
自社装置に限らず、生産プロセスに関するさまざまな知識をお持ちなので、本当に助かりました。
2つめは、設備の性能です。
乾燥・濃縮いずれも性能は問題なく、事前にテストした通り狙った品質どおり生産できています。
3つめは、親切なテスト対応です。
設備を検討していた2020年は、コロナ禍での移動制限もあり、候補に挙げた設備すべてを見学できませんでした。
機械は行かないと見られない、という制約がどうしてもあるなか、大川原製作所さんはオンラインでの試験も提案してくださいました。
我々も初めてのことでしたが、とても親切だと感じましたね。
実際、オンライン上では理解が難しい部分もありましたが、親切な対応とテストでの性能を見て
「間違いないだろう」という気持ちになりました。
さまざまな製品に対応できる設備を作るため、何ができるか
―第二研究所で製造されている製品と、その製造方法について教えてください。
第二研究所の新生産ラインでは、血液検査や尿検査などに使われる診断薬のうち、
特定のpH域で細胞が生きやすい状態を作りだす「緩衝剤」や、金属を捕まえる働きを示す「錯体」を製造しています。
―同仁化学研究所様で生産している製品の一部。緩衝剤だけでこれだけ多くの種類が生産されている。
―立ち上げた新生産ラインの稼働状況や満足度はいかがでしょうか。
先ほども触れましたが、「製造工程を大きく変えられない」という制約があります。
そのため、製造工程を変更する場合にはお客様の了解が必要で、
たとえば生産品の出荷前にサンプル品の提出を求められることもあります。
この現在第二研究所では、設備の正常稼働を確認した上で試作製造を行っています。
この試作製造は、すべての設備を稼働させ、製造した製品が社内規格に適合しているかを確認するための製造です。
現状、導入したリボコーン、エバポールいずれも目指す品質を担保できており、満足しています。
特にエバポールについては、想定以上の結果が得られており、満足度が高いです。
ボタン一個で生産も洗浄も全自動でできるため、コンセプトに掲げていた生産性、効率性、洗浄性を満たしていますし、
何よりお客様へ自信をもってお見せできますね。
安心して使い続けていけると考えています。
―今回の新生産ラインで実際に導入したエバポール
リボコーンについては、導入に至るまで細かく検討を重ねました。
理由は、既存の乾燥機に対し数年ごとに数百万近くの保守費がかかっていたためです。
そのため、新たに導入するリボコーンについては、オーバーホールのタイミングや頻度、交換部品の価格など、
ランニングコストについても細かく確認していきました。
加えて、弊社は九州にありますので、近くでメンテナンスしていただけるかどうかも重要なポイントでした。
その点、大川原製作所さんは長崎に拠点があり、九州内から技術者が来てくれることを知り、安心感もありましたね。
立ち上げの際に不具合もありましたが、すぐに技術者が来てくださり、しっかり対応いただけたので満足しています。
―逆に、新生産ラインを立ち上げる際に気を付けた点や苦労した点について、お聞かせください。
気を付けたのは、工事のスケジュールを守ることですね。
複数メーカーの設備を入れたので、納入のスケジュールには気を遣いました。
納期遅れを起こさないよう、週に一回、現場担当者が集まる定例ミーティングも開催していましたね。
そのおかげで、ほぼ納期通りに進んだのではないかと思います。
苦労した点はいくつかありますが、まずはリボコーンの運転制御における一部の機能が搭載されていなかったことです。
設備仕様を詰めていく際に、現場でのオペレーションが定まっておらず、弊社の要求仕様から漏れていたことが原因でした。
弊社は以前から、夜間の無人運転を行っており、既存設備にもそのための制御機能が備わっています。
それが、業界の一般常識だと思っていました。
今回も、当然その機能が付いているものだと考えて話を進めていたところ、実は仕様に含まれておらず付いていませんでした。
ただこれは、大川原製作所さんにソフトウェアを作っていただき、それを導入することで解決できる見込みです。
操作盤の取付位置についても、同様です。
見学者通路から見えるような位置に操作盤を付けたのですが、
オペレーションを考えると「ここじゃなかったな」という反省点があります。
図面では分かっていたことなんですが、そこから実際の状況を読み取ることができず、設備をアンカー留めしてから気づきました。
我々も、ここまでの大きさの機械を導入することが初めてでしたので、あらかじめ運用方法が確定できていなかったんです。
打合せの段階から、必要な機能は事細かに仕様へ含めていくことの大切さに気付かされました。
あとは、多品種に対応することの難しさです。
先ほども触れたように、もともと弊社では一つの設備で多くの製品を生産してきましたので、
今回の設備にも同様の性能を求めていました。
しかし、デモでテストした製品は問題なく製造できる一方、それ以外の製品は条件を変える必要がありました。
求める結晶径(粒の大きさ)がさまざまなため、それを一つの設備で対応することの難しさに直面しています。
小さな機械を使って、ある程度の当たりを付けてスケールアップできれば理想的なのですが、
限られた時間とスペースの中で設備を決めていったため、現在もサンプル品を作りながら調整をしているところです。
今回の新生産ライン構築を通じて見えてきた、理想の生産体制とは
―実際に導入したエバポールの前で一枚。新生産ラインを使った製造体制の未来について、想いを語っていただきました。
―今後、大川原製作所に期待することがあればお聞かせください。
環境にやさしい装置の開発をお願いしたいですね。
難しいことは分かっていますが、実際に導入してみると、結構エネルギーを使う設備だと感じます。
特にエバポールは使用する蒸気量も多く、環境負荷の懸念もあります。
世間的にもエコの流れがあるため、新たに導入する設備は環境低負荷なものを入れたいという気持ちがあります。
これからの時代、エコを謳った製品があっても良いのではないでしょうか。
また弊社では今後、既存棟の製品をすべて第二研究所へ移管する方向で進めていて、乾燥とろ過の生産設備を入れていきたいと考えています。
乾燥は現状、真空や加熱によるものがほとんどですので、
大川原製作所さんの知見をお借りしながらさまざまな乾燥方法を取り入れていけたら嬉しいです。
さらに、別スケールの生産ライン向けに、新建屋を構築することも検討しています。
何年後という明確な目標はまだお伝えできませんが、そこで試験機を使ったテストなどをお願いすることもあるかと思います。
その時はぜひよろしくお願いします。
―生産全体に対する今後の展望をお聞かせください。
もっと、女性の活躍を進めていきたいと考えています。
大川原製作所さんの試験室を拝見した際、オペレータが女性であったこと、また設備が女性でも動かせることに強い衝撃を受けました。
一方で弊社を見ると、「設備は男が動かすもの」という現場意識がまだまだ強いと感じています。
しかしこれから先、男性限定の仕事は、人材確保の面でも難しくなっていくと考えています。
そんな時、女性でも問題なく操作できる設備があれば、女性作業者を増やしていくことにもつながると感じました。
見学した設備は弊社のものより小さいですが、女性が使えるということに驚きと感動を覚えましたね。
いつかは女性でもできるように、との想いで今後も取り組んでいきたいと考えています。
最後に、今回の新生産ライン構築を通じて、最初に詳細な仕様を詰めておくことの大切さや、
業者さんへの指示の出し方など、多くのことを学びました。
これから二期工事も控えていますので、その立ち上げに活かしていけたらと考えています。
インタビュー後記
「古くなったものを新しくする。」
「一台の設備でさまざまな製品に対応したい」
そのように考える現場担当者も、多いのではないでしょうか。
同仁化学研究所様も、その実現を目指す企業の一つでした。
予算や設置面積の制約と向き合いながらも、理想とする生産体制を構築するため、
さまざまな困難を乗り越えてこられた姿は、心打たれるものがありました。
また、インタビューの中で出てきた「自分たちのやってきたことが、業界の一般常識だと思っていた」という大山様の発言が、
とても印象的でした。
我々も自分たちの常識にとらわれることなく、日本のものづくりをより一層活気づけるための取り組みを進めてまいります。
大川原製作所は、化学メーカー様向けライン生産設備の構築も得意分野としており、これまで多くの実績を重ねてまいりました。
ご満足いただけるような生産設備を、一緒につくり上げていきませんか?
生産現場を熟知したメンバーが、しっかりとサポートさせていただきます。
われわれにお任せください。
どんな小さなことからでも構いませんので、お気軽にお問い合わせください。
この記事で紹介した、装置について詳細を知りたい方は、以下のリンクから製品ページをご覧ください。
遠心式薄膜真空蒸発装置 エバポール | 円錐型リボン混合/乾燥機 リボコーン |